東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)46号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び審決の理由の要点1ないし3は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
審決の理由中は「水槽中に浸漬する棒状体の搬入搬出といつた搬送操作を勾配レールやコンベアで行なうことは上記引例中にすでに開示されているところである。」との記載があることは、前叙のとおり当事者間に争いがない。被告は、右記載を、円柱体を水槽中の傾斜案内装置上に搬入し、その円柱体をチエーンコンベアにより水槽外へ搬出する本願発明の搬入搬出方法が引用例に開示されている趣旨である旨主張し、原告もこれを明らかに争つていない。しかしながら、水槽中に浸漬する棒状体の搬入搬出を勾配レールやコンベアで別々に行うことが引用例に開示されていることは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第五号証によれば、被告が主張するような傾斜案内装置による搬入とチエーンコンベアによる搬出の組合せは引用例に開示されていないことが認められる。そして、本願発明が間歇的に搬入搬出を行うものであるのに対し、引用例のものが連続的に搬入搬出を行う点において相違することは、当事者間に争いがないところ、引用例のものと同様連続的に搬入搬出を行う場合に限り、前記の組合せが容易であることは原告の自認するところであるが、原告は、本願発明は間歇的に搬入搬出を行うものであるから本願発明における前記の組合せは容易であるとはいえない、と主張する。しかし、連続的な搬入搬出も間歇的な搬入搬出も水槽中に浸漬する棒状体の搬入搬出として同一の技術分野に属することは明らかであるから、間歇的に搬入搬出を行う本願発明においても前記の組合せは引用例の前記記載に基づき容易に行うことができたといわなくてはならない。したがつて、本願発明における前記の組合せが引用例に開示されている趣旨の審決の認定の誤りは審決を取消すべき事由にならず、原告の取消事由(1)の主張は採用できない。
2 取消事由(2)(3)について
成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、あらかじめ定められた順序に従つて制御の各段階を逐次進める制御をシーケンス制御と呼ぶこと、シーケンス制御を自動化しようとする場合装置の各段階の始動、停止の動作は通常リレーやタイマーなどの利用によつて行われるもので、その制御動作の代表的な手段がスイツチ機構であること、右事実が本願出願当時当業者の技術常識であつたと認めることができる。
ところで、前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲第一項及び成立に争いのない甲第二ないし第四号証(本願明細書及び図面)によれば、本願発明は、円柱体を傾斜案内装置により水槽内に間歇的に搬入し、所望時間水中に浸漬後、チエーンコンベアにより水槽外へ搬出するもので、これを二つのスイツチを関連作動させ、間歇的に円柱体の搬出を行う自動的な養生方法に関するものであるところ、養生工程自体は、円柱体を傾斜案内装置により水槽内へ搬入する段階、所望時間水中に浸漬する段階、浸漬後円柱体をチエーンコンベアにより水槽外へ搬出する段階を順次経由させることにより養生を完了させるもので、次の段階で行うべき制御動作があらかじめ定められていて、前段階における制御動作が完了した後に次の段階に移行するものであるから、これは正に前叙のシーケンス制御の場合に該当するということができる。そして、シーケンス制御の自動化の場合にはスイツチ、タイマー等の使用が通常行われることは前叙のとおり当業者の技術常識であるところ、前記円柱体の水中養生時間を経過したものの搬出時期の判断は、搬入時点から起算して所望の養生時間が経過したかどうかのみによつて決めることができるものであるから、所望の養生時間経過後の円柱体の搬出用のチエーンコンベアを作動させるためには、円柱体の水槽への搬入から所望時間経過後に搬出コンベアの駆動装置を正確に作動させればよいという程度のことは当業者ならば容易に想到することであると認められ、また、一定時間経過後に装置の駆動機構を作動させるための手段の代表的なものとして、時限作動するスイツチ、例えばタイマーが挙げられることは前叙のとおり技術常識であると認められる。
そうすると、本願発明のような円柱体の搬入搬出手段による水中養生方法を間歇的に行うように自動化しようとすれば、円柱体の間歇的な搬入を検知してタイマーを作動させるスイツチを水槽の円柱体搬入部に設け、一方、搬出用チエーンコンベアには同じタイマーによつて作動される駆動装置始動用スイツチを設けることにより、円柱体の搬入時に搬入路上に設置したスイツチによつてタイマーを作動させ、一定時間経過後に同じタイマーによつてチエーンコンベア駆動用のスイツチを作動させ、水槽より所定の浸漬時間が経過した円柱体のみを搬出するようにタイマーを介して右両スイツチを関連作動させれば、間歇的に搬入される円柱体を、所望の浸漬時間経過後に間歇的に水槽外に搬出するという養生操作が構成できるであろう程度のことは、当業者であれば格別の創意工夫を要することなく容易に想到し得たものと認められる。右認定に反する原告の主張は採用できず、原告の主張する効果も引用例及び前叙の技術常識から予測できる範囲のものと認められる。
前記当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決は「自動的に搬送操作を行うにはスイツチによる作動が不可欠である」としていることは明らかである。一般論としては右事実を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、シーケンス制御においては、装置を自動化する場合には、シーケンス制御されている各段階のそれぞれを始動、停止するための代表的な手段がスイツチ機構であることが本願出願当時当業者の技術常識であつたことは前叙のとおりであるから、審決の前記認定の誤りが、審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。
そうすると、本願発明が、二つのスイツチを関連作動させ、間歇的に円柱体の搬出を行なつている点にも格別の創意工夫を要したものとは認められないとした審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由(2)(3)の主張は採用できない。
三 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、原告の本訴請求を棄却する。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲第一項は左のとおりである。
セメントと骨材により成形した半硬化状態の円柱体を水槽中の傾斜案内装置上に間歇的に搬入し、その円柱体を水中に浸漬し、所望時間水中に浸漬後、その円柱体をチエーンコンベアにより水槽外へ搬出する円柱体の水中養生方法において、傾斜案内装置の上方の端部付近に設けられ、前記円柱体の通過により作動されるスイツチと、前記スイツチにより一定時間後作動するスイツチを関連作動させて、前記円柱体を所望時間水槽に浸漬するようにしたことを特徴とするセメントと骨材により成形した円柱体の水中養生方法